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会長声明・意見書等
2020.6.17 会長声明・意見書等 旭川地方法務局留萌支局における公証事務取扱の廃止に対する意見書

2020(令和2)年6月16日
旭川地方法務局 御中
旭川弁護士会 会長 林 孝幸

 令和2年5月14日付文書により、御局留萌支局における公証事務取扱が同年7月1日をもって廃止される旨の通知があった(以下「本件廃止通知」という。)。
しかしながら、同支局の公証事務取扱の廃止は、以下に述べるとおり同支局管内で生活する住民、中でも移動手段として自家用車を利用できない住民に対し、私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図るという目的をもった公証制度の利用に大きな負担を課す結果となることから、到底看過できず、再考を求めるものである。

 留萌支局での公証事務利用例について
 これまで、当会は、日本弁護士連合会、北海道弁護士会連合会と共同して、平成16年2月、留萌ひまわり基金法律事務所、平成23年5月、オロロンひまわり基金法律事務所を留萌市に開設し、地域の司法サービス提供に努めてきたところであるが、これらの事務所から次のような公証事務利用例の報告を受けている(いずれも過去3年以内の事例である。)。

 ① 緊急に公正証書遺言を作成する必要があった事例
 身体の衰えが著しく遠方への移動が困難な高齢者が遺言を希望し、本人の体調から遺言書を作成する切迫した必要があったケースで,公証人のスケジュールが合わず出張作成が難しかったため、公証人からの勧めもあって、留萌支局で公正証書遺言を作成した。

 ② 公証人の出張サービスが利用できなかった事例
 遺言希望者は著しく多忙で、旭川や滝川まで赴いて公正証書遺言を作成する時間的余裕がなく、公証役場から依頼者に寝たきり又は高齢などの事情がない限り出張作成サービスは利用できないとの指摘をうけたため、留萌支局で公正証書遺言を作成した。

 ③ 手近な支局が利用できたため執行認諾文言付公正証書を作成した事例
 依頼者は、遠方の公証役場に出向いてまで公正証書を作成する意思はなかったが、留萌支局で作成が可能であったため、私文書としての合意書ではなく、執行認諾文言付公正証書を作成することにした。
これらの利用例は、いずれも、留萌支局で公証事務を取り扱っていなければ公正証書の作成には至らなかったと思われる事案であり、同支局における公証事務取扱の必要性を実証するものである。

 新たな立法による公証事務の創設への対応について
 本年4月1日施行の改正民法465条の6第1項で、第三者が事業用融資を保証するときには、公証人による保証意思の確認が必要とされることになった。
 資金繰りが悪化した事業者は、急ぎ保証人を確保して金融機関から事業用融資を受けなければならないところ、遠方の公証役場まで保証人が赴かなければならないことが理由となって保証人が確保できず、融資を受ける機会が奪われ、事業継続を断念するケースも生じかねない。今般の改正民法の施行により、事業者が融資を受ける必要性・緊急性の観点からも、公証人がいない地域の法務局において公証事務の提供を受ける必要性は増大したといえる。
 これまでも、平成13年10月3日法務省告示第449号により、御局紋別支局及び同稚内支局で配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV保護法)第12条2項の認証業務を新たに取り扱うこととされた例があり、今後も新たな立法による公証事務の創設はあり得ることであって、その観点からも留萌支局において公証事務を継続する必要性がある。

 本件廃止通知に記載されている廃止理由について
 ⑴ 本件廃止通知第2項は、道路交通網の整備や公共交通機関が発達したことにより、住民の移動手段が飛躍的に向上したことを廃止の理由として挙げているが、道路網が整備されたとしても、自家用車を持たない住民にとっては移動手段の向上にはならない。公共交通機関に至っては、留萌支局で公証事務の取り扱いが始まった昭和31年当時と比較して、羽幌線、増毛線が廃止されていて、発達したどころか明らかに衰退している。
 次に、ファックスや電子メールが一般家庭にも普及したことも公証事務廃止の理由として挙げているが、本件廃止通知第3項にも書かれているとおり、それらがどれだけ普及しても、定款認証以外の公証事務では、最低1回は公証役場まで行かねばならない。どんなに通信手段が発達したとしても、公証役場まで出向く必要がなくなることはない。
 留萌支局管内の町村部に居住し自家用車を持たない住民にとって、同支局における公証事務が廃止されれば、旭川や滝川の公証役場までバスを乗り継いで行くしかなく、丸1日がかりの行程である。確かに、公証人の出張サービスはあるが、1日4万円という高額な日当が発生するうえ、前述のとおり、寝たきり・高齢などの事情がなければ利用できない運用となっており、常に出張サービスが使えるとも限らない。公証役場まで行くために必要な時間・費用や、出張作成サービスの利用のしづらさを考えると、実質的に公証事務の利用機会を奪われる者は少なくない。

 ⑵ 本件廃止通知第4項は、自筆証書遺言書保管制度が開始されることを理由に挙げている。しかし,自筆証書遺言の保管制度は、公正証書遺言を代替するものではない。公正証書遺言が持つ遺言の効力に関する紛争防止機能に対する需要は、自筆証書遺言書保管制度の開始後においても、何ら変わることはない。

 留萌支局における公証事務の廃止ではなく、紋別支局及び稚内支局における実施が検討されるべきである。
 本件廃止通知は留萌支局における公証事務の利用件数に言及していないものの、公証人法第8条に基づく公証事務の廃止が、実施されている全支局一律のものでない限り、利用件数の少なさが廃止理由とされたと推測される。
 しかしながら、同支局において公証事務が利用できることは全く広報されておらず、そのことを知る地域住民は極めて少数である。また、公証制度を利用することにより得られる法的紛争未然防止の利益は、国民が、その居住する地域にかかわらず等しく受けられるべき利益であって、公証事務を実施するために多額の予算を要するとは考え難いことからすれば、支局における公証事務取扱は廃止ではなく拡充が検討されてしかるべきである。

 結論
 以上のように、留萌支局で公証事務を行う必要性が認められる一方で、本件廃止通知に書かれている事情は同支局における公証事務の取り扱いを廃止する理由にはならないのであるから、当会は、同支局における公証事務取扱の廃止に反対し、再考を求めるものである。

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