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会長声明・意見書
2021.2.9 会長声明・意見書 訪問販売等の書面交付義務の電子化に反対する意見書

 消費者庁は、訪問販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供等の特定商取引法の(通信販売以外)全ての取引類型と商品預託法の預託等取引契約について、消費者の承諾を要件に、書面交付義務の電子化を認める法改正を進めようとしています。しかし、これではこれまで特定商取引法等が積み上げてきた消費者保護制度の基盤が根底から崩壊します。当会は、この法改正に強く反対します。

 書面の電子化がもたらす大きな問題点は次のとおりです。

 ⑴ 第1に、被害が多発している不本意な契約類型について「書面交付義務とクーリングオフ」による消費者保護の役割を失うおそれがあります。
  ア オンライン契約で、英会話指導(特定継続的役務提供)、マルチ商法(連鎖販売取引)など、契約内容が複雑で難解な契約をした場合に、①広告表示や説明がない不利な契約条項や、②予備知識のないクーリングオフ制度の存在などを、消費者が小さなスマートフォン画面から自分でスクロールして契約条項を探し出して、的確に判断材料とすることは困難です。
  イ また、訪問販売で勧誘された高齢者が販売員のセールストークを信じて契約を結び、スマートフォンに契約条項を送られた場合には、紙の書面が自宅のテーブルの上に交付された場合と異なり、①スマートフォンを自分で操作して契約内容を自分で確認することが難しいうえ、②家族やヘルパーなどがスマートフォン内に保管されている契約書面を発見して被害に気づくこともできなくなります。とりわけ、少子高齢化で高齢者の独居世帯が多い地方都市においては、都会で生活する子供が盆や正月で実家に帰省した際に、大量の契約書面を発見して老親の消費者被害に気づくということが稀ではありません。また、進学のため上京した直後の学生が高価な英会話教材の購入契約を締結してしまったことを、心配して様子をみに行った父母が紙の書面によって認識するという事例もみられました。このように、紙の書面に比べ、電子書面の交付は高齢者や若年者など弱い立場の消費者に対する「周囲の見守り機能」の著しい低下をまねくことは経験上明らかです。
  ウ さらに、消費者庁は、消費者の承諾がある場合に限って電子データでの提供をするのだから、消費者に不利益にはならないと説明しています。
 しかしながら、「納得ずくの承諾」の有無が事後的に争われることはこれまでの多数のトラブル事例からも明らかです。
 そもそも、特商法の取引類型は、①不意打ち的な勧誘(訪問販売・電話勧誘販売・訪問購入)や、②儲け話を強調した勧誘(連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引)、③受けて見なければ顧客への適合性が判別しにくい無形のサービス提供を長期多数回に渡す契約をまとめて締結させるような広告や勧誘(語学指導、学習指導、エステティックサービスなどの特定継続的役務提供)などにより、契約締結の意思形成自体が不完全または歪められた状態になりやすく「納得ずくの契約締結」が困難であることから、書面交付義務やクーリング・オフ等の法規制が加えられている特殊な取引分野です。
 このような契約締結の意思形成自体が不完全な状態でありがちなときに、消費者が「電子データで良いですね」と業者から誘導され、そうするものだと思って承諾してしまった場合に、書面の電子化については「納得ずくの承諾」が得られたなどと業者が主張することは許されませんが、トラブルの多発が懸念されます。

 ⑵ 第2に、今回の改正は「デジタル社会の推進」「オンライン取引の円滑化」の目的を超えて、訪問販売等の不意打ち型勧誘・対面取引や、連鎖販売取引等の利益誘引型取引も、必要性もなく、議論もなしに電子化の対象に加えてしまうおそれがあります。
 対面販売(訪問販売、連鎖販売取引等は店舗・訪問の契約もある)では、その場で契約書面を直接交付できるのですから、書面の電子化の必要性は低いはずです。にもかかわらず、わざわざ電子データで提供することを業者が勧め、不利な契約条項やクーリングオフ制度に気付かせないようにするといった手口が発生するおそれがあります。

 ⑶ 第3に、そもそもトラブルが多発する取引分野には書面の電子化を導入しないというのが、従来からの政府の一貫した方針でした。これを今回拙速に十分な議論も経ずに変更する合理性的理由(立法事実)は見いだせません。
  ア 平成12(2000)年11月8日、IT書面一括法に関する国会審議において、担当の平沼大臣は、「契約をめぐるトラブルが現に多発している法律、例えば、サラ金規制に関する貸金業規制法、マルチ商法規制の訪問販売法等については、そもそも本法律案にはなじまない、ですから対象としないことにいたしました。」との明確な答弁をしています。
  イ また、消費者庁と経産省は、平成23(2011)年1月20日、官邸のIT戦略本部の専門調査会からの2度にわたる詳細な質問に対し「特定商取引法が対象とする取引は、通常の商取引と異なり、自ら求めない突然の勧誘を受ける取引や、ビジネスに不慣れな諸費者を勧誘する取引により、消費者が受動的な立場におかれ・・、高齢者を含む消費者が、電磁的交付について積極的な承諾の意思表示を行い得る環境であるとは言い難い」として、極めて端的かつ明快に特商法の趣旨に鑑み、電子化否定の回答をしています。約10年前に、消費者庁と経産省がいずれも書面の電子化を「受け入れる環境がない」という回答をし、その後の10年の間に、消費者のリテラシーを含めて電子化を許容できる環境が整ったといえるでしょうか。むしろ、逆に消費者が被害にあいやすいネット環境の悪化が一層深刻化しているのではないかと考えます。
  ウ さらに当会が、もっとも看過できないのは、令和3(2021)年1月20日に、内閣府消費者委員会が急遽開催したヒアリングにおいて、訪問販売業者の団体である日本訪問販売協会の役員が「(今回、特定商取引全体の書面の電子交付という話がでたことについて)青天のへきれきみたいなものがあって、したがって、従来そういったものの現実感がない中でそういった議論(電子交付にした場合の新たな消費者対応、消費者被害の発生に絶対つながらないようにするためにはどうしたらよいかという検討)はしてきた経緯はございません」と回答していることです(消費者委員会本会議第336回議事録)。
 特商法取引の分野における書面の電子化について、事業者からの要望や事業者団体内部での検討すらなされていなかった(すなわち書面の電子化法案を基礎づける立法事実そのものが全く存在しなかった)ことが、図らずも明らかにされたと考えます。

 以上のことを踏まえて、当会は、訪問販売等の書面交付義務の電子化に強く反対します。

以上

令和3(2021)年2月9日
旭川弁護士会 会長 林 孝幸

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