- 安倍政権は、憲法9条に関するこれまでの政府解釈を変更して、集団的自衛権の行使を容認しようとする方針を打ち出している。
集団的自衛権とは、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に対する武力攻撃を実力をもって阻止する権利である。
憲法9条の解釈に関する国民的議論はこれまで、自衛隊や在日米軍の存在など日本国内における事象を中心として展開されてきた。そのため、少なくとも、憲法9条に照らして集団的自衛権を是とする揺るぎない国民的合意など存在しない。また、政府解釈も、憲法9条の存在を根拠に集団的自衛権の行使を否定してきた。
このような状況のもとで、政府が30年以上にわたって憲法で禁止されていると説明してきた集団的自衛権の行使について、憲法の改正手続きに拠らずに、閣議決定や立法的措置など時の政権・多数派の都合によって解釈変更・容認してしまうことは、政府や国会が憲法に制約されるという立憲主義に反する事態を招くことになる。
- 今般、政府・与党関係者より、砂川事件最高裁判決(1959年)を引用して「必要最小限の自衛権を認めた砂川判決に基づけば、集団的自衛権の限定的な行使は認められる」旨のいわゆる「限定容認論」が説かれている。
しかし、砂川事件は日本の集団的自衛権を行使を念頭に争われた事件ではなく、アメリカ合衆国が日本に軍隊を駐留していることの合憲性が問われた事件であるから、明らかに最高裁判決の誤用である。また、集団的自衛権はあくまで「自衛権」の一部と考えられているのであるから、その行使が許される場面を日本の自衛のために「限定」することはむしろ当然のことであり、この点において「限定容認論」に目新しさは何もない。むしろ、日本が直接攻撃されていないにもかかわらず国外の紛争に武力でもって参加するという本質的な事項について、「限定容認論」は何ら歯止めになるものではない。
- 当会はこの間、立憲主義を擁護する立場から、憲法96条改正、特定秘密保護法の制定に対して反対である意思を表明してきた。現在、安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認の方針についても、政府や国会が憲法に制約されるという立憲主義を擁護する立場からは断じて容認することはできない。
よって、当会は、憲法9条のもとで集団的自衛権の行使は許されないとしてきた政府解釈を変更することに、強く反対する。
2014(平成26)年5月2日
旭川弁護士会 会長 小林 史人