1 現在,刑事手続のIT化の議論が,法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下,「本検討会」という。)で進められている。検討会では,刑事手続について情報通信技術を活用する方策に関し,現行法上の法的課題を抽出・整理した上で,その在り方が検討されている。
2 本検討会における論点項目について,「書類の電子データ化,発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が主に挙げられており,この中に被疑者・被告人との接見交通が論点項目として掲げられている。
3 現在,日弁連では,逮捕段階における公的弁護制度の創設が議論されている。逮捕段階からの充実した弁護活動を可能にするためには,逮捕されて間もない時点における迅速な接見ができるようオンラインを活用した接見交通を実現する必要性が高い。また,身体を拘束された被疑者・被告人が十分な防御準備をするためにも、書類の授受を含む接見交通のオンライン化の必要性がある。
特に,当会の管轄区域は、広大であり、他の地域に比べてもその必要性は格段に高い。例えば旭川市内から稚内警察署で逮捕された被疑者に接見をするためには、自家用車を使用したとしても片道約250キロメートルの距離を走行する必要があり、その所要時間は片道4時間以上かかる。したがって、旭川市内に事務所を置く弁護士が稚内警察署に逮捕された被疑者に接見するためには、往復8時間以上の時間を空けておかなければならないことになる。JR等の公共交通機関を利用するとすれば、1回の接見のために宿泊を伴う場合もありうる。また、冬季にはさらに条件が厳しくなり、荒天時にはそもそも往来が不可能となることすらあり得る。このように当会管内において、遠距離移動が必要という物理的な障害により接見が困難な場合があり得るところ、オンライン接見はそのような障害を取り除き、充実した弁護活動を可能とする大変有効なツールとなるものである。そのため、当会では刑事弁護に関わる会員はオンラインを活用した接見交通の必要性を十分に意識した議論が今後も本検討会で継続的になされていくことについて,特に重大な関心を抱いている。
4 本検討会における議論の中で,オンラインを活用した接見交通については,設備や予算などの問題が指摘されているようである。しかし,新たな設備の整備等が必要なのは,令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。未決拘禁者が遅滞なく法的助言者と通信し,協議するための十分な機会,時間及び便益を提供されなければならないことは,国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められているところであり,被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において提供されるべきである。
5 刑事手続のIT化の議論は,何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は,オンラインを活用した接見交通の実現に向け,本検討会にて更に具体的な議論が尽くされることを求める。
2022(令和4)年3月1日
旭川弁護士会 会長 飯塚 正浩