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会長声明・意見書等
2023.3.14 会長声明・意見書等 「袴田事件」第二次再審請求差戻後即時抗告審における再審開始決定を受け、検察官は特別抗告を断念し速やかに再審公判に移行させること及びえん罪被害者の救済のために刑事訴訟法改正を求める会長声明

令和5年3月13日、東京高等裁判所は、いわゆる「袴田事件」の再審請求事件につき、静岡地方裁判所による再審開始決定を支持して検察官の即時抗告を棄却し、再審を開始する決定をした。

「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日、味噌製造販売会社専務宅で一家4名が殺害され、放火されたという住居侵入、強盗殺人、放火事件であり、 同年8月に逮捕された袴田巌氏(以下「袴田氏」)は、当初から無実を訴えていたものの、犯人として起訴された。

第一審判決では、袴田氏が、味噌タンク内から発見された「5点の衣類」を着用して被害者らを殺害したなどとして死刑判決が下され、控訴・上告をしたが、1980年(昭和55年)11月19日の上告棄却により死刑判決が確定した。

これに対し、袴田氏は、翌1981年(昭和56年)4月、第一次再審請求を申し立てたが、再審開始は認められず、2008年(平成20年)3月の最高裁特別抗告棄却決定により終了した。
同年4月25日に申し立てた第二次再審請求においては、弁護団の証拠開示請求に対し、 裁判所からの勧告もあって「5点の衣類」の発見時のカラー写真や取調べテープなどを含む多数の証拠が開示された。その後、2014年(平成26年)3月27日、静岡地方裁判所は、「5点の衣類」 のDNA鑑定の結果及び「味噌漬け実験」の結果-事件から1年以上経過して発見された衣類には血痕の赤みが残っていたが、1年以上味噌漬けされた血痕に赤みが残るとは考え難い-を新たな明白な証拠とし、「5点の衣類」は警察によるねつ造の疑いがあるとして本件について再審開始を決定した。また、死刑のみならず拘置の執行も停止し、袴田氏は、47年7ヶ月ぶりに釈放された。

ところが、検察は、この再審開始決定に対して即時抗告を申し立て、これを受けた東京高等裁判所は、2018年(平成30年)6月11日、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定を行った。これに対し、請求人である袴田氏の姉袴田ひで子氏が特別抗告したところ、最高裁判所は、東京高等裁判所における上記棄却決定を取り消し、東京高等裁判所に差し戻した。

今回の東京高等裁判所における決定は、最高裁決定により差し戻された2度目の即時抗告審の決定であるが、静岡地方裁判所における再審開始決定を支持したものである。

静岡地方裁判所が、再審開始ならびに死刑及び拘置の執行を停止したのは、上記のとおり、2014年(平成26年)3月27日であり、これまでに約9年もの年月が費やされている。袴田氏は、現在87歳であり、長期間にわたる死刑囚としての身体拘束による拘禁反応症状から心身の不調を来している。また、第二次再審請求を行っている袴田氏の姉ひで子氏も現在90歳である。そのため、検察官は、人道的見地からも、本決定を受け入れて特別抗告をせず、1日も早く再審公判に移行すべきである。

また、「袴田事件」の第二次再審請求審においては、約600点もの新たな証拠が開示されたが、これは裁判所の積極的な訴訟指揮により実現したものである。現行の刑事訴訟法には再審における証拠開示に関する明文の規定がないことから、証拠開示を実現できるか否かは、裁判所の判断により区々となっているのであり、再審制度が、迅速かつ適切にえん罪被害者を救済する制度として機能するためには、証拠開示の法制化が急務である。

以上より、当会は、袴田氏をえん罪から救済するために速やかに再審公判へ移行すべきであること、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止及び再審における証拠開示の法制化を含む刑事訴訟法の改正を行うことを求めるものである。

以上

 

2023(令和5)年3月14日

旭川弁護士会 会長 池田 めぐみ


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