1 2023(令和5)年3月16日、札幌高等裁判所は、旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の控訴審において、除斥期間の適用を制限して被害者の請求を認容し、国に損害賠償を命じた。
2 全国各地で係属している同種訴訟のうち、これまで被害者の請求を認めたのは、2022(令和4)年2月22日大阪高裁判決、同年3月11日東京高裁判決、2023(令和5)年1月23日熊本地裁判決、同年2月24日静岡地裁判決、同年3月6日仙台地裁判決と相次いでいる。これらの判決は、旧優生保護法の趣旨とする優生思想、被害の甚大さ、被害者らが声をあげにくい社会状況等を認定して除斥期間の形式的適用を制限し、被害者の請求を認容した。本判決はこれに続いて被害者を救済する妥当な判決であるから、国はこれに対し上告しないよう求める。
3 人は子を産み育てる権利、子をもつか否かを自身で決定する権利を有し、これらの権利は憲法13条により保障される。また、憲法14条は「すべて国民は法の下に平等」であると定めており、旧優生保護法のように「不良」な人間が認定できるとし、あまつさえ強制的に不妊手術を受けさせるなどということは明らかな憲法違反である。しかし、国は、憲法に反するこの法律の存続を約50年許して人権侵害を継続させ、その後も被害回復の措置をとることなく放置した。現在もなお、道内の知的障害者施設で、結婚を望む利用者に不妊処置を提示し、拒否する場合には退所を求めたというケースが明らかとなるなど優生思想の影響が残るといえる状況であり、すべての人が平等に暮らせる社会が実現しているとは言い難い。旧優生保護法による被害の実態、被害者らの年齢、社会に与えた多大なる影響を考慮すれば、被害の原因となる法を作り維持した国が漫然と上訴し、徒に訴訟を長期化させることがあってはならない。国に求められるのは可及的速やかな被害回復である。
4 当会は、昨年4月26日にも、旧優生保護法による被害者の全面的救済を求める会長声明を公表した。そして今般、当会は、国に対し、本年3月16日付札幌高裁判決に対し上告しないことを求めるとともに、旧優生保護法により生じた被害回復を早急に実現することを求める。
以上
2023(令和5)年3月24日
旭川弁護士会 会長 池田 めぐみ