2015年12月16日,最高裁判所大法廷は,夫婦同氏の強制を定める民法第750条は憲法第13条,同第14条,同第24条のいずれにも違反するものではないと判断した。
その理由として,婚姻の際の「氏の変更を強制されない自由」は憲法上保障されていないこと,夫婦同氏の強制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないこと,個人の尊厳と両性の本質的平等という憲法第24条の要請に照らして夫婦同氏の強制が合理性を欠くとは認められないことなどが挙げられている。
しかしながら,日本弁護士連合会がかねてから「選択的夫婦別姓制導入並びに非摘出子差別撤廃の民法改正に関する決議」(1996年10月25日)において指摘したとおり,民法第750条は,憲法第13条及び同第24条が保障する個人の尊厳,同第24条及び同第13条が保障する婚姻の自由,同第14条及び同第24条が保障する平等権を侵害し,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反するものである。
今回の最高裁大法廷判決においても,5名の裁判官(3名の女性裁判官全員を含む。)が,民法第750条は憲法第24条に違反するとの意見を述べた。そのうち岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官,鬼丸かおる裁判官及び山浦善樹裁判官が同調)は,夫婦同氏の強制によって個人識別機能に対する支障や自己喪失感等の負担がほぼ妻に生じていることを指摘し,その要因として,女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における立場の弱さと,事実上の圧力など様々なものがあることに触れており,夫婦同氏の強制が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないと説示している。さらに,木内道祥裁判官の意見は,夫婦同氏の強制は,憲法第24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等に違反すると説示し,「家族の中での一員であることの実感,夫婦親子であることの実感は,同氏であることによって生まれているのだろうか」と疑問を投げかけている。
法制審議会は,1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」を総会で決定し,男女とも婚姻適齢を満18歳とすること,女性の再婚禁止期間の短縮及び選択的夫婦別姓制度の導入を答申した。また,国連の自由権規約委員会は婚姻年齢に男女の差を設ける民法第731条及び女性のみに再婚禁止期間を定める民法第733条について,女性差別撤廃委員会はこれらの規定に加えて夫婦同氏を強制する民法第750条について,日本政府に対し重ねて改正するよう勧告を行ってきた。法制審議会の答申から19年,女性差別撤廃条約の批准から30年が経つにもかかわらず,国会は,上記各規定を放置してきたものである。今回の最高裁大法廷判決における山浦善樹裁判官の反対意見も,1996年の法制審議会の答申以降相当期間を経渦した時点において,民法第750条が憲法の諸規定に違反することが国会にとっても明白になっていたと指摘している。
一方,上記同日,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について,最高裁判所大法廷は,100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして,憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反するとの判断を下した。
民法第733条を違憲であるとした点については,日本弁護士連合会の主張と合致するものである。しかし,女性のみに再婚禁止期間を設けることは,その期間を100日間に短縮したとしても必要最小限にしてやむを得ないものとはいえない。
当会は,国に対し,民法第750条及び同第733条並びにこれらの規定とともに法制審議会にて改正が答申され,国連の自由権規約委員会及び女性差別撤廃委員会から勧告がなされている同第731条(婚姻適齢)を速やかに改正することを強く求める。
2016(平成28)年1月19日
旭川弁護士会 会長 金 昌宏