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会長声明・意見書等
2016.1.19 会長声明・意見書等 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明 (平成28年 年頭にあたって)

1. 昨年の第189通常国会(衆議院)へ再提出された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が、現在継続審議とされている。先頃召集された通常国会もしくは参議院選後の臨時国会で実質審議に入る可能性が極めて高い状況となっている。
カジノ解禁推進法案は、「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである」とし、カジノを中心としたIR(Integrated Resort:統合型リゾート)を推進する立場からは経済の活性化や雇用の拡大などのプラスの効果があると期待されている。
しかし、カジノ解禁推進法案には、以下に述べるとおり多くの問題がある。当会はこの法案に強く反対し、本法案の廃止を求めるものである。

2.カジノ解禁推進法案の問題点
(1)
カジノは「賭博」である
そもそもカジノは刑法が禁じている「賭博」に該当する。カジノ解禁推進法案は、本来は賭博に該当するカジノについて、一定の条件の下に設置を認めるために必要な措置を講じる、とするものである。
刑法が賭博を禁じている主な趣旨は、「勤労その他正当な原因によらず、単なる偶然の事情により財物を獲得しようと他人と相争うものであり、国民の射幸心を助長し、勤労の美風を害するばかりでなく、副次的な犯罪を誘発し、さらに国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれがあることから、これを社会の風俗を害する行為として処罰すること」にある。カジノを解禁することは、刑事罰をもって賭博行為を禁止してきた立法趣旨を損なうものであって、「経済の活性化」のために、働くことなしに濡れ手で粟を求める場を創設することは、まさに本末転倒といわなければならない。

(2)暴力団対策上の問題
2007年6月に策定された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や、2011年10月までに全都道府県で施行された暴力団排除条例に基づき、官民一体となった暴排活動が進められた結果、暴力団の資金源は逼迫しつつある。このような暴力団が新たな資金源を求めカジノへの関与またはカジノの関連業種(人材派遣業、貸金業、各種リース業、広告業、風俗産業など)に強い意欲を持つことは容易に想定される。この点、カジノ営業を行う事業主体からは暴力団を排除するための制度が整備されるとのことであるが、事業主体として参入し得なくてもカジノ関連業種へのフロント企業の進出が暴力団の資金源を潤すことは容易に推測される事態である。

(3)マネー・ローンダリング対策上の問題
我が国も加盟している、マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において、カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。
我が国にカジノを設けた場合、仮にカジノ事業者に対して犯罪による収益の移転の防止に関する法律に基づく取引時確認、記録の作成・保存、疑わしい取引の届出を求めたとしても、こうしたマネー・ローンダリングを完全に防ぐことができるとは考えられない。

(4)ギャンブル依存症の拡大
カジノの解禁は、病的賭博(ギャンブル依存症)の患者を大きく増加させるおそれがある。賭博の中でもカジノは、一度に賭ける金額や賭率、ゲームの速度・頻度等に工夫をこらし、ハイテクを駆使して射幸心と陶酔感をあおり立て、参加者が所持金を全て使い果たすまで賭け続けるように働きかけるものとなっており、いわばギャンブル依存症患者を作り出すことで収益を上げるビジネスモデルとなっている。
ギャンブル依存症は、慢性、進行性、難治性で、放置すれば自殺に至ることもあるという極めて重篤な疾患であり、当人のみならずその家族の生活まで破壊するおそれがあるため影響は重大である。一方、カジノは利益を上げるために多数の賭博客を得ようとするのは当然であり、カジノ設置によってギャンブル依存症の患者が増加することは避けられない。

(5)多重債務問題再燃の危険性
賭博には必ず敗者が存在する。破産調査の結果によると、破産した者のうちギャンブルが原因と見られる者が5%程度にのぼる。
2006年の貸金業法改正等、官民一体となって取り組まれてきた一連の多重債務者対策によって、この間、多重債務者が激減し、結果として、破産者等の経済的に破綻する者、また、経済的理由によって自殺する者も減少してきた。カジノの合法化は、これら一連の対策に逆行して、多重債務者を再び増やす結果をもたらす可能性がある。

(6)経済効果に関する問題
前述のとおり、カジノを推進する立場からは、経済の活性化効果を期待する声がある。
しかし、先に挙げたとおり、ギャンブル依存はさまざまな経済的損失をもたらすことが指摘されている。治療にかかるコストはもちろん、依存症患者の労働力・生産性の低下、失業や破産に伴う生活保護費など、莫大な損失となる。韓国では、2009年のギャンブル産業の売上高が16.5兆ウォンであったのに対して、家庭崩壊や労働意識の低下で社会全体では60兆ウォンの損失が生まれたという政府の試算がなされている。つまりトータルで見ればカジノが存在することで得られるベネフィットよりも社会的なコストやロスが上回っており、経済的にはむしろカジノの存在が重荷になっていると評価できる。
また、カジノを中核としたIRが大きな利益を挙げたところで、当該施設を運営する民間企業の利益となるだけである。特に、IRのカジノ以外の施設はカジノの収益を利用して極めて低廉な価格でサービスを提供しており、従前から当該地域にあった会議場施設、レクリエーション施設、宿泊施設は太刀打ちできず、衰退していくことになる。「地域経済の振興に寄与」するのではなく、むしろカジノの収益を前提とした不当な低価格競争によって地域経済を衰退させていく可能性が高い。また自治体の税収増を期待する声もあるが、地域経済の衰退による税収減、雇用先消滅、生活保護費をはじめとする社会保障負担増を併せ考えれば、目論見通りの税収増にならずかえって税収減・負担増の負のスパイラルに陥る可能性も高い。
こうした「負のコスト」を考えると、カジノ解禁による収益は、トータルでの経済の活性化にはつながらないのである。

3.まとめ
以上のとおり、刑法で禁止されている賭博行為を行うカジノを推進する本法案は、上記のような様々な弊害をもたらすものであるから、当会は、これに反対する立場を表明するとともに、その速やかな廃案を求めるものである。

2016(平成28)年1月19日
旭川弁護士会 会長 金 昌宏


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