平成27年6月17日,公職選挙法の一部を改正する法律が可決成立した。同法附則第11条は,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を構ずるものとすると定められている。また,自由民主党は,これに先立ち平成27年4月14日,少年法の適用年齢を現行の20歳未満から引下げることもなどについて検討する「成年年齢に関する特命委員会」を開き,少年法の改正について今国会中に一定の方向性を示すものと報道されている。
しかしながら,法律の適用年齢を考えるに当たっては,現行少年法の有効性についての視点とそれぞれの法律の立法趣旨に照らしての検討が不可欠であり,当会は,以下の理由から少年法の適用年齢を引下げることに強く反対する。
少年法は,少年の健全育成を期するものであり,次代を担う若者に対する教育体系の一端を担う性格をもつものである。少年法は,少年の健全育成の手段として,家庭裁判所や少年鑑別所の科学的知識を活用した審理を行い,裁判官,調査官等の裁判所関係者,少年鑑別所技官,付添人等が,少年の改善更生のために様々な試みを行ってきた。また,少年の抱える問題に対して必要な場合,教育機関である少年院に少年を収容し,徹底した教育を行ってきた。これらの取り組みの結果,平成26年版犯罪白書によれば,少年による刑法犯の検挙人員は,第1のピークであった昭和26年の16万6433人,第2のピークであった昭和39年の23万8830人,第3のピークであった58年31万7438人を経て減少を続け,平成25年は9万0413人となり昭和21年以降,初めて10万人を下回るに至っている。また,少年10万人あたりの検挙人員も平成25年は763.8人となり,ピークであった昭和56年の1721.7人の半分以下となっている。少年犯罪は,減少の一途をたどっており,少年犯罪が凶悪化ないし増加しているなどという立法事実は存在しない。むしろ,これらの事実からすれば,現行の少年法は,少年の改善育成に有効に機能していると言える。
平成16年から平成25年までの少年院出院者の出院年を含む5年間における再入率は,14.5%ないし16.0%である。また,少年院出院者の刑務所への5年以内の入所率も10%を下回る。他方で,平成21年の出所受刑者の出所年を含む5年間における再入率は,39.5%である。これらの少年院出院者と出所受刑者の再入率の大きな差異は,少年の可塑性を示唆するのみならず,現行の少年法制が少年の再非行防止に有効であることを明確に示している。
平成25年の18歳以上20歳未満の少年の検察庁新規受理人員は,4万8642人であり,約40%が自動車運転過失致死傷等,約25%が道路交通法違反のいわゆる交通関係事件である。交通関係事件については,他の事件とは審理及び処分について異なった配慮がなされ,既に略式命令請求など成人同様の刑事処分も多く選択されているところである。他方で,その余の少年に対しては,現在は少年法の個別処遇の見地から,少年の個々の特性及び問題に応じて,保護観察,少年院送致等の各種保護処分が選択され,少年の問題性に即したきめ細やかな保護処分が実施されている。仮に,これらの少年について少年法の適用除外として,成年同様の起訴猶予率を想定した場合,半数以上が何らの教育的措置を受けることもなく社会に放置されることになる。これは,少年が更生と立ち直りの機会を奪われるのみならず,再犯防止の観点からも問題が残りかねないものですらある。このように,現行の少年法の下,家庭裁判所は,刑事処分と保護処分を使い分けており,その少年の問題性に即した処分を選択している。それこそが,上記の少年の再非行防止につながっているのである。
選挙権を20歳と引下げたのは,昭和20年に成立した公職選挙法の前身たる衆議院議員選挙法の改正によるものである。その目的は,20歳を超える者は参政能力と自覚にかけるものではなく,男女を問わず政治的自覚と能力にかけることのない者にことごとく参政の権能と責任を与え,もって民主的な議会政治の確立を期したものである。他方で,旧少年法では18歳未満とされていた適用年齢を現行法が20歳未満と引上げたのは,衆議院議員選挙法改正の後である昭和23年に成立した現行少年法である。現行少年法は,戦後の少年犯罪増加の中,18歳未満のみを少年法の対象とするのでは不十分であり,当時最も犯罪の多い年齢であった18歳ないし20歳の少年に対しても保護処分により改善更生をはかることを目的としたものである。すなわち,選挙権を20歳とした衆議院議員選挙法改正と,少年法の適用年齢を20歳未満とした現行少年法とは,全く異なる立法趣旨によって立つものである。
以上のとおり,現行の少年法は有効に機能している上,公職選挙法の選挙年齢と少年法の適用年齢は全く異なる立法趣旨にたつものである。かえって少年法の適用年齢を安易に引下げたならば,少年の更生と立ち直りの機会を奪い,有効に機能している現行の少年法の制度に悪影響を与えるものである。
よって,当会は,少年法の適用年齢の引下げに強く反対するものである。
2015(平成27)年6月26日
旭川弁護士会 会長 金 昌宏